教育学野で車いす講習会―誰もが安心して通える大学に向けて
車いす利用学生などへの対応や教職免許取得に必要な介護等体験事前指導を円滑に進められることを目的に、茨城大学教育学野は1月29日、同学野教員向けの「車いす講習会」を開催しました。他学野教員を含め、約20人が参加しました。講師は同学野副学野長の新井英靖教授と、教育学部修学支援員の田原敬准教授。いずれも同学部特別支援コースで教鞭を執っている教員です。車いすの基本的な使い方から、実際に人を乗せた状態で車いすを押す演習まで、総合的に学びました。車いすユーザーである同学部1年の加藤純奈さんと、加藤さんの友人で介助等の経験が豊富な同学部1年の落合仁栄さんも参加し、気付いたことや気を付けた方が良いことなどを伝えました。
講習会ではまず新井教授が、車いすの開き方や閉じ方などを説明。座ってもらう際は尻餅をつかないよう必ずタイヤのストッパーを掛けることなど具体的な指示もありました。特に注意しなければならないのは巻き込み。例えば手にまひがある人が車いすに乗った場合に、タイヤに手が巻き込まれていても気付かないことがあります。加藤さんも右手の感覚が弱く、タイヤに手をこすっても気づかず、よくすり傷を作ってしまうそうです。介助者は、隅々まで気を配る必要があります。参加者からは、「どのくらいの高さの段差/傾斜は上れるのか」「芝生や砂浜はどうすれば良いか」などの質問がありました。
基本的な説明を終え、さっそく実習へ。参加者は2人1組に分かれて、車いすに乗る人/押す人を適宜入れ替えながら、教育学部棟内やその周辺を回ります。車いす用トイレは、扉が開いたまま止まる設計になっているなど工夫がされていますが、座ったまま扉を動かすのは力が必要そうでした。便座への座り替えに苦戦する姿も見られました。
段差は、まず前輪を浮かせて段差の上に乗せ、次に後輪を浮かせる...というように、段階的に上る必要があります。車体を傾け、さらにそのまま前進するのには、慣れやこつが必要です。
教育学部A棟の外へ。道路と建屋前の路面との段差を埋めるため、小さなスロープが並んでいます。一見上りやすく見えますが、スロープに対して前輪を垂直に動かさないとバランスが崩れてしまいます。さらに、一部欠けているスロープもあり、そうした場所から上ろうとすると前輪がつかえてしまい、大きな衝撃があります。加藤さんからは、上りやすい場所を見極めて走行するようアドバイスがありました。
教育学部A棟入口には、スロープが備え付けられています。こちらのスロープは、バリアフリー法に基づき、勾配が1/12となっています。高さ12センチにつき、底の長さが100センチ必要、という基準です。とても緩やかな傾斜に見えますが、こちらを車いすで上るのはかなりの労力が必要です。
筆者も体験させていただきましたが、車輪を一回しするのも大変で、上り切るころにはお腹と腕がじんわり熱くなりました。
最後は芝生に集合し、走りにくい場所での介助を実践しました。段差を上る時のように前輪を上げ、後輪のみでバランスを取って走行しました。
参加した川路智治助教は、「視線が下がったことで、色々な気付きがありました」と話します。例えば、エレベーターのボタンの位置。「立って乗る時はボタンの位置が低めに感じていましたが、車いすに座っているとちょうど顔の正面にボタンがあり押しやすかったです」。一方、教室にある電気スイッチの位置は高すぎるようです。「僕は大柄な方ですが、スイッチを押すのは結構大変でした。小柄な方だとぐーっと伸びないと届かないと思います。エアコンのスイッチはさらにその上にありました」。 初めて構内で車いすを運転し、「腕がぱんぱんです」と大変さを実感したようでした。
講師を務めた田原准教授は、「予想を上回る参加があり、事前に用意していた車椅子が不足するほど多くの教員の方々にご参加いただきました」と関心の高さを感じた様子です。大学でこれまで行われてきた障害体験プログラムは学生向けのものが一般的で、今回のように教員自身が車いすを体験する取り組みは、全国的に見ても例があまりありません。しかし、「意欲的に参加されていた先生方の姿をみて、誰もが安心して過ごせるキャンパスづくりというものは、こうした取り組みを通じて進んでいくのだと感じた」と振り返りました。
誰もが安心して通えるキャンパスの実現に向けて、今後より全学的な取り組みとしたり、他の障害種で同様の体験プログラムを実施したりと、さまざまな形での発展が期待されます。
(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)