建設業界の実情は?
-学生がイメージ調査、課題や対応策を提案
人文社会科学部の太田啓文准教授が指導するメジャー基礎ゼミナール(経済学?経営学メジャー)に所属する2年生10人が、大学生が建設業界に抱いているイメージの調査などを基に、業界を取り巻く現状や課題などをまとめました。北都建設工業(土浦市)で1月30日、報告会を開き、茨城県内の建設企業の社長4人を前に、調査結果の報告や対応策を提案しました。
この取り組みは、建設業界で働く女性の活躍を支援を支援する「建女ひばり会」会長の柳瀬香織海老根建設社長から、「建設業界の人材不足解消に向け、学生を交えた意見交換会をしたい」という依頼をきっかけにスタートしました。柳瀬社長は、県経営者協会の委員を務めていることや、同学部のオムニバス授業への登壇などで太田准教授(経営学)と親交があります。
学生たちはまず、人文社会科学部や工学部などの学生272人に対し、建設業に抱いているイメージに関するアンケート調査を実施。ほとんどの学生が「生活に必要な仕事をしている」などとして建設業に良いイメージを持っている一方、就職したいと回答した学生は半数以下にとどまりました。さらに質問を重ねると、大学生は主に建設業の①労働環境(長時間労働、給与の低さ)②人材不足(若手不足、女性雇用)に対し問題意識を抱いていることが明らかになりました。そこで、労働環境班、人材不足班に分かれ、それぞれ実情や解決策を探りました。
労働環境
労働環境班は、学生のイメージ通り、建設業界の出勤日数や労働時間数が他業界を上回っている現状を紹介しました。要因として、依頼主からの信頼を得るため工期を厳守しなければならないことや、悪天候等により工事が計画通り進まないことがあること、工事の受注時期が集中していることなどを挙げます。さらに、建設業は労働基準法36条に基づく時間外?休日労働に関する上限規制(通称36協定)の適用が他業界に比べて遅い2024年4月からだったことも、長時間労働につながっているとの見解を示しました。休日取得状況は「4週6休程度」が最多となっており、これも、36協定施行の後ろ倒しが響いていると考察しました。
ただ、上述の通りすでに36協定が導入されているほか、2024年3月に施行された改正建設業法には発注者が適正な工期を設定することや著しく短い工期を禁止することなどが盛り込まれており、環境の改善が見込まれているとしました。
また、給与は、他業種と比較しても高い水準であることを示し、学生のイメージと乖離があることを指摘しました。
人材不足
人材不足班は、全産業平均に比べ、建設業に従事している若者(29歳以下)の割合が低く、高齢者(55歳以上)の割合が高くなっていることを報告しました。
さらに、建設業界における人材獲得競争は激しさを増していると指摘。技術力?資格を持つ工業高校卒のニーズが高い反面、工業高校では大学などへの進学率が増加しており、2022年の工業高校卒業生求人倍率は17.2倍にも上ること紹介しました。なお、同年の大学卒業生求人倍率は1.5倍です。
そこで、人材不足班は大卒人材の雇用に着目しました。取り組みに協力する県内建設企業4社のうち、大学への求人を出しているのは2社、大卒人材の雇用実績があるのは1社と、大卒人材の雇用が進んでいない現状があります。
同班は、茨城大学の理系学部(理学部、工学部、農学部)の学生に対して4社の新卒大学生に提示可能な労働条件(給与、休日数等)を示したところ、条件の提示前に比べ提示後の就職意欲が増加したことから、問題は建設業界の実情の周知が進んでいないことだと指摘しました。
女性雇用についても、建設現場に防臭や施錠機能がしっかりしている「快適トイレ」を設置したり、育児との両立を支援する制度を充実させていたりと、各企業の努力を伝えました。
提言
以上の調査から、実際の労働状況や大卒人材の働き方などを周知するためにSNSを活用した情報発信を強化することや、さらなる長時間労働是正や女性活躍ためにICT施行の導入を促進することなどを提案しました。
柳瀬社長は「人材をどう集めるのかというのは、会社の存続にかかわる。大学に求人を出すことの大切さ、いろいろな方に働きたいと思ってもらえるように情報発信をすることの大切さが身に染みてわかった」と話しました。
労働環境班の住吉杏介さんは、この取り組みを通して建設業の労働環境が改善傾向にあることなどを知り、業界へのイメージが「強く大きく変わりました」。「自分もそうですが、条件をきちんと知れば、就職したいという学生もいると思う」と情報発信の必要性を語りました。
北都建設訪問前に見学したつくば市の同社建設現場にて
(取材?構成:広報?アウトリーチ支援室)